ナレッジ  » 週刊 戦略調達 vol.90 2010.12.28

【週刊 戦略調達 vol.90 2010.12.28】
持たない経営でハイリスクハイリターン型事業に決別-日本郵船

【今週のトピックス】

経営資源を獲得する際に考えなければならない事の一つに、その経営資源
が必要となるそもそものビジネスを、自社で保有する固定費型にするのか、
売上に応じて外部から調達する変動費型にするのかだ。

日本郵船が自社保有のコンテナ船を減らし、他社からのチャーター船に切
り替える戦略を進めているという。つまり、固定費型のビジネスから変動
費型にコンテナ船事業の舵を切り替えるということだ。

今回は、この日本郵船の戦略転換を例に、固定費型のビジネスと変動費型
のそれとの違いをみていこう。

「日本郵船はこれまで運航船舶をほぼすべて自前でそろえたきたが、2008
年末の金融危機を境に戦略を転換した。2009年3月末には113隻あった自社
船を今期末を目処に85隻へ2割超削減、5年後には3割減となる60隻まで減
らす。代わりに1回ごとや1~3年契約のチャーター船を増やす(参考:
2010年12月16日 日本経済新聞15面)」という。

現在では、「自社船を中心に運航規模を拡大するのが海運業界の潮流で、
郵船の戦略は逆張りといえる。商船三井は100隻体制のコンテナ船を16年
3月末をめどに120隻に増やす。欧州海運最大手のA・P・モラー・マースク
は、自社保有の超大型船を導入した。(参考:同上)」

日本郵船が固定費型から変動費型へコンテナ船事業を転換しようとする戦
略の背景には、同社のコンテナ船事業部門の損益が2008年3月期の若干の
黒字から2009年3月期に250億円程度の赤字に転じ、2010年3月期は554億円
と赤字幅が増大したが、今期は一転、345億円の黒字を見込むとなったよ
うに、コンテナ船事業の損益の振れ幅が大きいことがある。

この様な環境下、自社保有の船舶を減らし、他社からのチャーター船を活
用した変動費型のビジネスに切り替えることは、利益を安定化する効果を
生む。なぜなら、船舶などの資産・設備を保有することは、売上に関わら
ずコストが生じる。資産・設備の稼動が十分に上がらなければ、それだけ
で赤字になってしまう。変動費型のビジネスであれば、そうした固定費が
減り、売上に応じてコストとなるコンテナスペースを確保すれば良いので、
利益を出しやすくなる。

それでは、変動費型のビジネスにデメリットはないかというと、利益が出
やすくなる反面、大きく利益を上げることが難しくなる。なぜなら、売上
に応じて、都度コンテナスペースを確保しなければならず、コストも同じ
ように増加していく。時には、必要な資産・設備を確保できず、売上その
ものを逃してしまうかもしれない。また、コストがサプライヤとの交渉に
よって決まるので、機動的な価格戦略が難しくなる。短期的な経営の自由
度が狭まるのだ。

それに対して、固定費型のビジネスは、資産・設備の稼動が上がり損益分
岐点を越えれば、変動費として出て行くコストが少ない分だけ利幅が大き
く、一気に膨大な利益を上げることができる。また、自社の資産・設備で
あれば、急な注文への対応や機動的な価格設定が可能であり、短期的な経
営の自由度が高いといえよう。ところが、売上が損益分岐点に届かず、資
産・設備の稼動が上がらなければ、その分のコストがそのまま赤字となる。
このような観点から、固定費型のビジネスはハイリスク・ハイリターン型
のビジネスといえる。

ハイリスク・ハイリターン型のビジネスが悪いわけではない。また、利益
を大きく上げるには固定費型のビジネスを志向せざるを得ない。投資家が
そうしたビジネスを望むのであれば、固定費型のビジネスに進むしかない。
外部から大きく資金調達をするベンチャーに、研究開発型も含めた固定費
型のビジネスが殆どなのは、そうした資本の性格による。

日本郵船は、コンテナ船事業の超過利潤を追わない代わりに、顧客から荷
物を集め他社に仲介するフォワーディング事業に注力するようだが、事は
そう簡単に進まないだろう。フォワーディングの場合、日本郵船は中間流
通であり、何らかの機能を果たさなければ、日本郵船を通す事がお客様か
ら見た時に単なるコストアップ要因と見られかねない。特に、資産・設備
信仰が強かったり、短期的な無理を聞いてくれるのを評価したりする日本
のお客様を相手にするには、固定費型のビジネスの方が売上を上げやすい
という側面もある。自社保有のコンテナスペースを売る場合であれば、一
時的な値下げでの受注といった方法もあったが、他社のスペースであれば、
そうもいかない。売るだけでなく、他社から有利な条件でスペースを調達
する能力も求められる。

固定費型、ハイリスク・ハイリターン型のビジネスと変動費型、ローリス
ク・ローリターン型のビジネスとは、それぞれに一長一短があり、どちら
が優れており、どちらが劣っているというものではない。ただ、調達する
ものが資産・設備そものもからキャパシティや能力に移ったように、収益
の上げ方が大きく異なり、当然、ビジネスの力点の置き方もそれに応じて
大きく変わってくる。ただ、それだけだ。

それでも、日本郵船の戦略は一つの判断としてあり得る。固定費型のビジ
ネスの成立要件として、資産・設備を安定稼動させるだけの需要が見込め
るということがある。荷動きが大きく変動し、かつ、これから需要の急回
復も見込めない状況では、下手に資産・設備を抱えるよりもフリーハンド
を保っておくというのは一つの考え方として理解できる。

加えて、事業構造の転換に資産・設備を抱える固定費型は迅速に対応でき
ず、事業機能の柔軟な組み換えが可能な変動費型は対応しやすいという側
面がある。様々な産業で生産地、有力プレイヤー、有力市場がどんどん入
れ替わり、モノの流れが大きく変わる可能性を抱えた現在では、変化に柔
軟に対応できる変動費型の事業構造に分があると考えられる。

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【編集後記】

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

2010年の週刊 戦略調達は今号が最後になります。それでは、皆様よいお年
を!(山本)

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【週刊 戦略調達】
■発行者 株式会社 戦略調達 中ノ森 清訓
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■発行日 毎週火曜日
■創刊 2009/4/16
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