ナレッジ  » 週刊 戦略調達 vol.68 2010.7.27

【週刊 戦略調達 vol.68 2010.7.27】
JALが教える「業績が低迷してからのコスト削減は焼け石に水」

【2010年ストラテジックソーシングベンチマーキング調査結果のご案内】
~日本の調達・購買部門は、コストセンターと認識されパフォーマンス管
理が不十分、人員の手当て不足、IT・ツールの導入不足が課題

まず、お忙しい中、当調査にご協力頂いた多くの方々には御礼申し上げま
す。お陰様で、無事、本調査報告書をまとめることができました。

本調査により、日本の調達・購買部門は、コストセンターと認識されパフォー
マンス管理が不十分、人員の手当て不足、IT・ツールの導入不足が課題で
あることが明らかになりました。

調査結果のまとめは、http://www.samuraisourcing.com/news/100708.html
にてご覧頂けます。

また、今回の調査により、日本の調達・購買機能の更なる向上には、業種
別、規模別などの属性別分析や時系列の推移等のより詳細かつ継続的な分
析が求められることから、今後も本調査を継続し、定期的に調査結果をま
とめていくことと致しました。

当調査の詳細と継続調査への参加申し込みは
http://www.samuraisourcing.com/service/benchmark/ をご覧下さい。

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【今週のトピックス】

100年に1度と言われたリーマンショック以降の大不況に対して、各社はコ
スト削減で生き残りを図ってきました。最近になり、景気底打ちの声も聞
かれ、ほっとし、「よしコスト削減は終わった。これからは攻めだ」とお
考えの経営者の方々も多いのではないでしょうか?

実は、そうした考えは誤りであり、「攻めの時こそコスト低減の時である」
ということを、会社更生手続き中の日本航空をケースに学びます。

最近、会社更生手続き中の日本航空(JAL、日航)が、再建に向けてコス
ト削減を加速させているとの報道がありました。

8月末の更生計画案の提出に向け、日航ではコスト削減の取組を続けてい
ます。たとえば、整備工具、資材を新品と中古を分けて保管し、新品には
単価を記載し、なるべく長く使用することを促す。全社員からコスト削減
のアイデアを募り、7000件を超える提案を集める。その中から、人員削減
で余った机やイスをイントラネットで公開し、グループ全体で再利用、両
面コピーを取る、休み時間に電気を消すなどの提案を励行しているとのこ
とです。パイロットの深夜、早朝を除く帰宅時のタクシー送迎の原則禁止
が導入され、空港まで自家用車での通勤を促す計画もあるといいます。飛
行条件に応じて燃費が最もよいルート、高度や速度、燃料の搭載量を細か
く見直すことによる10億円のコスト削減を含めると、こうした努力の積み
重ねで30億円のコスト削減ができると日航は試算しているとのことです。
(出所:2010年7月22日 読売新聞 Yomiuri Onine)

30億円というと大きなコスト削減と思われるかもしれませんが、2009年度
の日航の事業コストは約2兆円で、30億円のコスト削減は0.15%に過ぎませ
ん。また、2010年の6月末には、日航の債務超過金額は約1兆円となってい
ます。

こうした数字が示すのは、日航に必要なのは小手先のコスト削減ではなく、
抜本的な収益構造、コスト構造の転換です。

たとえば、主な航空会社が1座席を1km飛ばすのに必要な輸送単位コストは
ANAが約15円、ルフトハンザが約13円、AF-KLMが約10円、スカイマークが
8.5円、シンガポールが約7円、デルタが約5.5円、エア・アジアが2.7円で
す。(出所:2010年7月9日 日本経済新聞 17面)日航はデータがないの
で分かりませんが、ANAとの収益力の違いを考えると、ANAを上回っている
のではないかと思います。

コスト削減というと、とにかく支出を抑える、コストを下げる、無駄を省
けばよいと思われがちですが、コスト削減には何らかの投資が必要です。
どんなコストでもそれを下げようとすれば、どのような方法があるのか、
それによって問題が生じないか、そのコスト削減方法を社内に浸透させる
ために、少なくとも従業員を一人はその問題に貼り付けなければなりませ
ん。

加えて、収益構造を変える、コスト構造を抜本的にかえるようなコスト低
減には、設備を変えるなどのキャッシュでの投資が不可欠なことがほとん
どです。

たとえば、日航の再建案の主な柱は、国内外45路線からの撤退、約1万6千
人の人員削減、燃費の悪い老朽航空機の退役です。これらを実施するには、
退職金や機材処理などの費用が嵩みます。企業再生支援機構が日航の再建
支援に乗り出す前に債務超過額が試算されていた約7,600億円から1兆円に
まで膨らんだのには、こうした費用が生じているからです。費用が発生し
ない日航の追加策としては社員給与のカット位ですが、高給批判のあるパ
イロットの給与を仮に半分(まず無理ですが)にしても、年250億円のコ
スト削減、ようやく1.2%の事業コストの低減です。
(出所:2010年6月18日 日本経済新聞13面)

日航は、今後、さらに収益構造、コスト構造の転換を進めようとすれば、
ますます債務超過額が増え、支援している金融機関の債権カットなどの支
援や債務が更に膨らむという悪循環に陥ってしまう状況にまで追い込まれ
ています。

本来であれば、日航は現在、小手先のコスト削減ではなく、全社員一丸と
なって、商品・サービスに対する信頼回復、魅力ある商品・サービスの開
発、抜本的な収益構造・コスト構造の転換に努めなければならない時期で
す。

それが、両面コピーを取る、休み時間に電気を消す、通勤にタクシーを使
わないといった議論に終始せざるを得ないのは、反対にそこまで追い込ま
れてしまったことの表れです。これらの取組はやらないより、本来やるべ
き事の支障にならない限りできる事はやった方がよいのですが、正直、焼
け石に水の感があります。ひどい時には、こうした細かい努力は、経営者
や従業員に、とりあえず「自分達はこんなに頑張っている」との達成感が
得られるため好んで使われますが、単なる自己満足に終わってしまい、目
の前の大変だが本当にやるべきことから目をそらさせてしまいます。

整備工具、資材を長く使用するのに、本当に資材を新品と中古とに分けて
保管する必要があるのでしょうか?購入、廃棄の基準を厳しくして、そも
そも新品を買うのを減らした方が、本当は良いのではないでしょうか。新
品と中古とを分けて保管するという仕事をわざわざ作っていることはない
でしょうか?パイロットが空港まで自家用車での通勤するのは、パイロッ
トの運転する車が交通事故に巻き込まれることなどによる運行スケジュー
ルへの影響など、別の問題をもたらすかもしれません。

このように追い込まれてからのコスト削減は、手遅れだけでなく、歪んだ
行動、意思決定をもたらすことになりかねません。景気底打ちも迎え、攻
めの姿勢に転じている企業も多くなってきているとは思いますが、攻めの
姿勢が取れるこれからこそ、真のコスト低減に着手できる時期です。

これからが、小手先のコスト削減ではなく、攻めの過程の投資、活動を通
じて、競合他社が追従できないような収益構造・コスト構造の転換を常に
追求していく真のコスト低減の始まりの時です。

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【編集後記】

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

今回ご紹介したYomiuri Onlineの記事では、「あるメガバンク幹部は『普
通の企業では当たり前のことが、これまでできていなかったことに驚いて
いる』」とのコメントが紹介されていました。彼らの顧客サービス、支出
管理を見ると、メガバンクの幹部の方に、「普通の企業では当たり前のこ
とができていない」とはあまり言われたくないな思いました。(山本)

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【週刊 戦略調達】
■発行者 株式会社 戦略調達 中ノ森 清訓
 www.samuraisourcing.com
■発行日 毎週火曜日
■創刊 2009/4/16
■ご意見、ご感想、お問い合わせは ms1@samuraisourcing.com
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