【週刊 戦略調達 vol.67 2010.7.20】
日産自動車の日立の納品遅れで工場操業停止に見る「お客様は神様、ではなくお客様」
【2010年ストラテジックソーシングベンチマーキング調査結果のご案内】~日本の調達・購買部門は、コストセンターと認識されパフォーマンス管
理が不十分、人員の手当て不足、IT・ツールの導入不足が課題
まず、お忙しい中、当調査にご協力頂いた多くの方々には御礼申し上げま
す。お陰様で、無事、本調査報告書をまとめることができました。
本調査により、日本の調達・購買部門は、コストセンターと認識されパフォー
マンス管理が不十分、人員の手当て不足、IT・ツールの導入不足が課題で
あることが明らかになりました。
調査結果のまとめは、http://www.samuraisourcing.com/news/100708.html
にてご覧頂けます。
また、今回の調査により、日本の調達・購買機能の更なる向上には、業種
別、規模別などの属性別分析や時系列の推移等のより詳細かつ継続的な分
析が求められることから、今後も本調査を継続し、定期的に調査結果をま
とめていくことと致しました。
当調査の詳細と継続調査への参加申し込みは
http://www.samuraisourcing.com/service/benchmark/ をご覧下さい。
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【今週のトピックス】
日産自動車は、日立製作所から調達しているエンジン制御部品の入荷遅れ
のため、国内4つの完成車工場で3日間の操業停止を決めました。
これを単なる景気回復時の需給バランスの調整、日立の納期管理、サプラ
イヤ管理の問題と見ていると問題の本質を見誤ります。
今回は、この日立の納期遅れによる日産の生産停止をケースに、その背景
にあるモノづくり、調達・購買における構造変化について考えます。
今回の納期遅れは、このエンジン制御部品に含まれるカスタムICと呼ばれ
る日産向けの特注品を、日立が欧州半導体最大手のSTマイクロエレクトロ
ニクスから調達できなかったことが原因となりました。カスタムICは顧客
の仕様にあわせて2~3年の開発期間をかけて作りこまなければならず、開
発費や生産コストを抑えるために、日立は調達先をSTマイクロ1社に絞り
込んでいました。
つまり、今回の納期遅れには、モノづくりのグローバル化や電子化、価格
競争の激化とコスト構造の抜本的転換の要請など、様々な要因が絡まって
います。今回のケースについて、こうしたモノづくり、調達・購買におけ
る前提条件の変化を考えずに、昔は良かった的な発想で信頼関係を前提と
した系列、長期的取引が解決策として挙げられているケースが目立ちます
が、調達・購買における構造変化により、そうした方法は問題解決の有効
な手段ではなくなっています。
一方で、信頼関係を前提とした系列、長期的取引を軸にしてきた自動車業
界、トヨタグループですら、その道には戻れないことを自覚しています。
たとえば、トヨタグループのダイハツ工業の白水宏典会長が、昨秋からの
調達改革の一貫として、6月下旬にひそかに足を運んだのは、トヨタ系列
ではなく、他社系列のメーカです。また、この調達改革において新規開拓
した13社の内、3社は中国などの海外メーカで、同社が国内向けの軽自動
車の部品を海外メーカから調達するのは極めてまれとの事です。
(出所:日本経済新聞 2010年7月16日 11面)
ダイハツがこうした動きを進めているのは、他ならぬ、トヨタの調達方針
の変化があります。5年ほど前、新興国向け小型車の開発に乗り出すトヨ
タから声が掛かったのですが、当時のダイハツでは採算があわせられず断
念するはめになりました。結局、トヨタは、インドで初の新興国専用車を
発売するにあたり、現地で20社以上の部品会社を新規開拓しましたが、そ
れでも当初目指した70万円の目標価格を上回りそう(出所:同上)で、系
列、長期的取引を強みとしていたトヨタ、トヨタグループでさえ、厳しく
取引先を選別していく動きは加速こそすれ、収まる気配はありません。
もう一つ見落としてならないのは、日本企業は、たとえ大企業であっても、
海外メーカにとって見れば、もう神様ではなく、単なるお客様の1社に過
ぎなくなってきている点です。
今回のケースで言えば、STマイクロが昨年公表した主要顧客リストには、
独ボッシュ、米デルファイ、デンソーなどの自動車部品大手の名前ばかり
で日立の名前は見当たりません。
(出所:日本経済新聞 2010年7月14日 11面)
確かに、1960~1980年代の日本の高度成長期では、日本企業について行け
ば取引も伸びたので、サプライヤから見れば、日本企業は神様だったかも
しれません。しかし、1990年以降、日本企業は、日本で大企業であっても
メジャー化が進んでおらず、現在のグローバル市場で見れば中小企業にす
ぎなくなっています。また、事業、品種が多岐に亘っており、企業規模が
大きくても、事業、取引単位で見れば、一つひとつの取引は更に小さく見
えます。加えて、品質や短納期の要求はきつい。グローバル市場のサプラ
イヤから見れば、日本企業は神様どころか、お客様、ひどい時には単なる
クレーマーとしか見られていません。
もともと、海外企業は個々の取引での採算管理が徹底しているケースが多
く、こちらが、長期的取引を約束したり、将来的利益を訴えても、話半分
にしか聞いていません。商品・サービスの価格競争力の維持を考えると、
こうした海外企業とより上手くより多く付き合っていかざるを得ません。
たとえば、今回のケースでは、STマイクロは10日ほどまえに、日産向けの
ICについて契約数量の8割強しか供給できないと一方的に通告してきたと
のことです。日立はただちに自動車部品子会社、日立オートモティブシス
テムズの専務らを欧州に派遣、STマイクロに釈明を求めましたが、詳しい
釈明は一切なかったとの事です。(出所:同上)
このような環境の中で、今回の件を単なる需給バランスの調整、他社(日
立)の納期管理、サプライヤ管理の失敗と捉え、いつまでも「お客様は神
様」という立場にあぐらをかいていると、貴社の工場のラインもすぐに停
止することになりかねません。
マスコミの論調では、日立の責任を追求する声もありますが、分かる人か
ら見れば、今回の生産停止の原因は最終的には日産にあります。日立から
の1社購買、STマイクロのカスタムICの採用を日産が選んだ時点で、こう
した事態は避けられないことは明白です。
「モノが届かないなんて日本企業の常識では考えられない!」ではなくて、
モノが届かないこともあるという前提で、そうした事態にどう対処するか、
どれだけそのリスクをサプライヤに転嫁し、どれだけ自社で引き受けるの
かを考える必要があります。海外サプライヤの場合は、自然災害、工場事
故に加えて、工場スト、港湾スト、政情不安定など、日本では考えられな
い要因で供給が止まることは少なくありません。
加えて、海外のサプライヤと付き合っていく上では、こうしたリスク配分
までもが、取引価格、信頼関係の構築に大きく影響します。長期的な信頼
関係は同一民族でなければ築けないというものではありません。相手の価
値観、価値判断の基準を理解し、それを尊重していけば、信頼を勝ち取る
ことはできます。
そろそろ「お客様は神様」という買い手の自分にとって甘い言葉にすがる
のは止めて、「お客様は単なるお客様」と見られているという冷徹な現実
を受け止めた上で、商品ラインアップ、開発・設計、調達戦略、購買戦略、
サプライマネジメント、サプライヤとの関係のあり方などモノづくり、事
業そのもののあらゆる側面を見直す時期に、我われ日本企業は来ています。
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【編集後記】
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
今の企業、マスコミ、大学、政治のトップは、日本がJapan as No.1と呼
ばれている時代に活躍した方々が中心となっています。
どうも、その成功体験がノウハウではなく、その成功が大きすぎた故に
強いノスタルジーとして現実を直視できなくなっており、それが現在の
日本の課題克服における足かせになっている気がします。(山本)
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【週刊 戦略調達】
■発行者 株式会社 戦略調達 中ノ森 清訓
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