ナレッジ  » 週刊 戦略調達 vol.53 2010.4.13

【週刊 戦略調達 vol.53 2010.4.13】
iPadのテアダウン結果が示すこれまでの調達・購買管理論の終焉


【今週のトピックス】

米調査会社のアイサプライがiPadのテアダウン結果を発表しました。その
結果からは、特に、大企業においては、これまでのモノづくりのパラダイ
ム、調達・購買管理論が通用しなくなっていることが伺えます。

テアダウン(tear down)は、ティアダウン、リバースエンジニアリングと
も呼ばれ、製品開発などに用いられる手法で、競合他社の製品を分解し、
そこから、設計、部品やそのサプライヤの情報を入手するものです。

同社の4/7付プレスリリースによると、$499で販売されている16ギガタイ
プのiPadの製造原価の内訳は以下の通りです。

製造原価内訳 / メーカ / 価格(ドル) / 価格構成比    
液晶ディスプレイ / LG Display(韓国)他 / 65 / 13%
ガラスパネル / Wintek(台湾) / 30 / 6%    
ケーシング他 /  / 32.5 / 7%    
バッテリー / Amperex(香港)他 / 21 / 4%
プロセッサ / Samsung(韓国) / 19.5 / 4%    
モバイルSDRAM / Samsung(韓国) / 7.3 / 1%    
無線LAN / Broadcom(米国) / 11.75 / 2%    
スクリーンドライバー / TI(米国) / 1.8 / 0%    
オーディオチップ / Cirrus Logic(米国) / 1.2 / 0%    
電源回路1 / Dialog(独) / 2.1 / 0%    
電源回路2 / Samsung(韓国) / 1.25 / 0%    
NADA Flash / Samsung(韓国)他 / 29.5 / 6%
その他 /  / 27.7 / 6%    
部品原価計 /  / 250.6 / 50%
製造 /  / 9 / 2%
製造原価 /  / 259.6 / 52%

ここで注目されるのが、この中に日本企業の名前がないことです。液晶
ディスプレイでセイコーエプソンが、フラッシュメモリで東芝がサプライ
ヤとして含まれているのですが、メインではないようです。また、バッテ
リーのAmperex TechnologyはTDKの子会社ですが、これは、2005年に香港
企業を買収したものです。一社の製品のことなので当てにならないかもし
れませんが、この背景には、自動車と並んで日本の製造業の象徴であった
電子部品で、日本企業のグローバルメーカとしての競争力に翳りが出てき
ていることがあるのではないでしょうか?

今でも、日本はトヨタの世界的な成功を例に、部品メーカとの固定的な関
係を軸とした擦り合わせ(インテグラル)なモノづくりでの品質競争に比
較優位を有する、これからもこの強みを生かしてグローバル市場で競争し
ていくべきという論調が、昔は良かったという郷愁と相まって、根強い支
持を得ています。

しかし、iPadに象徴されるように、日本が得意としてきたモノづくりの世
界でも、お客様が価値を認める品質差というのが世界的に縮小しており、
あらゆる製品・サービスのライフサイクルが短くなるモノづくりのファッ
ション化が進む中で、昔の自動車のようなインテグラルでマスな市場とい
うものは、どんどん減少していくことが予想されます。

すると、日本の大企業が取りうる今後のモノづくりが目指すべき方向性と
しては、これまでの強みを活かした(1)インテグラル型×ニッチ市場か、
これまでの市場を活かした(2)組み立て(モジュラー)型×マス市場の何
れかの方向になります。

産業機械はどうだ、コマツみたいに世界で圧倒的に強い日本企業はまだ
あるぞといった反論はあるかもしれませんが、工作・産業機械でも、韓国・
中国企業の追い上げがきつくなっています。コマツは、ある意味特殊で、
一般的な傾向の話をしている時に、例外ケースを出されてもの感がありま
す。反対に、そのような主張をされる方には、コマツ以外で、グローバル
にマス市場を抑えているインテグラル型企業を相当数上げて頂きたいと思
います。

実際には、現在のコマツの成功は、お客様に代わって、建機の稼動状況を
モニタリングし、適切なメンテナンスを行なうというサービス化によるも
のであって、これもインテグラル型のモノづくりによる品質だけでは、お
客様に価値を認めてもらえなくなっていることの別の形での表れと言えま
す。

加えて、大企業はその固定費負担からニッチ市場に向きませんので、やは
り、今後の日本の大企業のモノづくりの方向性としては、モジュラー型×
マス市場への対応がメインになるのではないでしょうか?

モノづくりの方向性がそのように変わるのであれば、調達・購買もモノづ
くりを支える一つの機能ですので、その方向性に合わせて変化する必要が
あります。

これは、中長期的な資源高と相まって、高度成長期に活躍された自動車・
電機メーカの出身者の方々が培ってきた、買い手企業の圧倒的立場や気心
の知れたサプライヤとの長期的関係に頼った擦り合わせによる段階的なコ
スト低減を前提としたこれまでの調達・購買管理論が終焉を迎えたことを
意味します。

これからは、買い手企業とは少なくとも対等、状況によっては、あまたあ
るお客様候補の内の中・下位の一社とこちらを見、それぞれの取引で合理
的でないと取引をしない海外サプライヤを相手に、グローバル最適調達を、
お客様の変化に合わせてスピーディに実現することを前提としたまったく
新しい調達・購買管理論に基づく調達・購買が必要とされているのです。

「あなたは、この調達・購買管理論の前提がまったく変わってきているこ
とへの備えは出来ていますか?」

iPadのテアダウン結果は、そのように問いかけているように見えます。

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【編集後記】

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

市販されている製品や公開されている情報を元に、テアダウンやリバース
エンジニアリングを行なうことは合法ですが、それをそのまま貴社製品に
利用すると、特許や著作権などの知的財産権を侵害し非合法となる時があ
りますので、そうならないようにご注意を。

また、そのまま利用するだけでは、単なる二番煎じになってしまいますの
で、貴社なりの工夫、改善により、お客様に新しい価値を提供するのが、
我われ製品・サービスを提供する者の最低限の存在意義ではないでしょう
か?

調達・購買の場合には、調達品の仕様やサプライヤの情報が得られますが、
それだけでよいモノをより適正な価格で調達できる訳ではありません。そ
こからは、あなたの調達案件戦略、調達活動の巧拙如何です。(山本)

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【週刊 戦略調達】
■発行者 株式会社 戦略調達 中ノ森 清訓
 www.samuraisourcing.com
■発行日 毎週火曜日
■創刊 2009/4/16
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