【週刊 戦略調達 vol.52 2010.4.6】
開国博Y150、東京五輪招致を巡る非合理な減額請求に学ぶ
【今週のトピックス】横浜開港150周年記念イベント、開国博Y150を主催した財団法人横浜開港
150周年協会は、企画や運営を委託した博報堂など8社で構成されるJV(共
同企業体)とアサツーディ・ケイ(ADK)に、未払い分契約金額約34億円
の一部減額を求める特定調停を、横浜地裁に申し立てました。
(出所:2010年3月30日 YOMIURI ONLINE)
開国博Y150を巡っては、日本旅行が、反対に、横浜開港150周年協会を相
手取り、同協会と結んだ入場券の大口買取契約の代金の一部返金を求め、
横浜地裁に民事訴訟を起こしています。
(出所:2010年3月11日 MSN産経ニュース)
何れも、実際の有料入場者数が、目標の500万人を大きく下回る約124万人、
目標の4分の1にとどまった事が、これらの争議の要因となっています。
類似の事例としては、東京都の石原慎太郎知事が、招致失敗後、16年夏季
五輪招致の最終プレゼンテーションで放映した映像の制作費が5億円がだっ
たことについて、「都民も私も納得できない」と述べ、映像を制作した電
通に値下げを求める意向を明らかにし(出所:2009年12月11日 毎日jp)、
その後、 石原都知事が会長を務める東京五輪招致委員会が電通に対する
未払いの約6億円の債権放棄を要求した(出所:2010年1月31日 asahi.com)
のが、記憶に新しいところです。
地方自治体の契約を巡っては、非合理な減額請求がベストプラクティスと
して、認知されつつあるのでしょうか?
これらは、政治的パフォーマンスとして、公共の利益、市民の税金を守る
ために戦う行政、悪質な大企業に立ち向かう行政という構図を作り出す目
的があるのかもしれません。或いは、イベントや五輪招致の失敗というそ
もそもの自分の失政を隠すために、注目を別に集める目的で打ち上げられ
た花火なのかもしれません。はたまた、裁判や借入交渉を自身に有利に運
ぶための「あらゆる手を尽くしました」とのアピールなのかもしれません。
ただ、こうした姿勢は、民間であろうが行政であろうが、決して、調達・
購買のベストプラクティスと呼べるものではありません。こうした不当な
減額請求が、ベストプラクティスとして広まることが無いよう、その問題
点を明らかにすると共に、私たちがこうした状況に陥らないようにする方
法についてご紹介します。
■ 不当な減額請求は下請法では禁止事項
下請法では、その第4条第1項第3号で、発注時に決定した代金を、「下請
事業者の責に帰すべき理由」がないにも関わらず発注後に減額することを
明確に禁じています。売上の見込み違い、発注側の事業の失敗などは、当
然、下請事業者の責に帰すべき理由として認められません。
今回のケースは何れも委託先が下請法の適用対象でないため、この下請法
の禁止事項に抵触しません。しかし、これは、法的に問題がないというこ
とではなく、下請事業者以外の企業であれば、不当な要求を拒否すること
が可能だからという理由のみにすぎません。
ですので、実際には、詳細な契約内容や、契約締結までに虚偽の情報提供
がなかったかなどを見なければ分かりませんが、横浜開港150周年協会の
博報堂などのJVやアサツーディ・ケイとの特定調停の申し入れ、石原都知
事の電通に対する一連の要求、日本旅行の訴訟は、法廷闘争に持ち込めば
持ち込むほど、認められない要求になるものと予想されます。
■ トラブル処理はリスクマネジメントよりコスト高
一般的に、トラブル処理はリスクマネジメントよりコスト高となります。
そのため、最近では、トラブルをリスクと捉え、未然に防止策を講じるリ
スクマネジメントの考えが一般的となっています。
今回のケースでも、弁護士費用や対抗資料の準備など、本来であれば不要
な費用、作業が発生しています。これらは、訴訟に勝てば回収できるとい
う考え方もありますが、訴訟に勝てないリスクもありますし、勝てても、
あくまでも損害を埋めるだけで、利益が得られる訳ではありませんので、
その回収に掛かるコスト、手間、リスクを考えると、見合わないものです。
■ 取引先に借りを作ることは癒着の温床に
今回のケースは、取引先から見れば、相手につけ込む格好の機会です。横
浜市、横浜開港150周年協会、東京都、東京五輪招致委員会の当事者達に
してみれば、自分達の失敗をとにかく繕いたい。また、問題がこれだけ公
になってしまえば、余計に何らかの成果をこれらの騒動から得られなけれ
ば、更に責任を追及される。
こんな時に、すっと相手方から、「分かりました。今回はそちらの要求を
飲みましょう。その代わり、次に予定されている○○については、よろし
く頼みます。」と言われて、その誘いに乗ったふりをして、後で踏み倒す
だけの覚悟のある人間がどれだけいるでしょう。まあ、こうした約束を反
故にすると、後で徹底的につぶしに掛かる相手との泥沼の戦いという別の
荊の道が待っていますので、大抵は、ここで絡めとられて、一生その取引
先に頭が上がらないという状態を作り出してしまいます。こうした所から、
取引先との癒着が始まります。
個人対個人であれば、恩義に報いるというのは大切な事です。企業間取引
でも、借りをきちっと返していく事は、信頼関係を築いていく上で大切な
事ですが、度を超した関係は、癒着となり、公正な取引による適正な利益
を失う元となります。
尚、東京オリンピック・パラリンピック招致委員会がまとめた「2016年オ
リンピック・パラリンピック競技大会 招致活動報告書」によると、五輪
招致活動における東京都の契約形態は、随意契約が金額で94.3%、件数で
90.2%、競争入札が金額で5.7%、件数で9.8%となっています。また、実際
の金額や相手先が開示されない一方で、わざわざ広告代理店との特定の1
社からしか見積を取らない特命随意契約を正当化する記述があることから、
随意契約のうちの多くの部分では、相見積も取られていないのではと推察
されます。これはあくまでも推察ですが、このようなケースでは、既に、
この広告代理店に都の関係者の多くが絡めとられてしまっているのかもし
れません。
■ 自ら優良取引先を退けることに
横浜市や東京都は、たとえ、今回の騒動で幾らかの損失を回収できたとし
ても、中長期的には、もっと大きな利益を失うことになりました。それは、
「こことは、まっとうな商売ができない」というイメージを、広く多くの
サプライヤに広めてしまったことです。
「あそこは、自分達の失敗のツケをこちらに回してくる。」
「あそこは、ちゃんと契約をしても、後で反故にする。」
こうしたイメージが定着してしまうと、他に商売のある優良サプライヤで
あればあるほど、こうしたところとの取引に応じなくなります。
結果として、競争は減り、しかも、近寄ってくるのは、他に商売のない、
二流のサプライヤばかり。これでは、本来、外部の専門企業を使うことで
得られるメリットを失うばかりです。
□ リスクに応じたプライシング
そもそも、イベントの成功や五輪の招致といった事業リスクは、事業主体
が負うべきものです。事業が成功した時だけの数字を基に、事業の実施の
可否を判断することに誤りがあります。事業を計画する時に、その事業が
失敗したら、どれだけの損失を被るのかも含めて判断するのが、事業主体
の仕事です。
もし、事業リスクを分担したいのならば、予め、リベニューシェア型の契
約にするなどしておけばすむことです。ただし、取引先にリスクを分担さ
せると、それだけ、取引コストは高くなります。サプライヤにしてみれば、
そのリスクに見合った課金をせざるを得ませんので、その保険料が上乗せ
され、取引価格は高くなります。
弊社でも、成功報酬型の契約をお客様から求められることがありますが、
その際には、プロジェクトで想定されるリスクを考慮して、プライシング
します。
つまり、今回の騒動は、予め予見し手を打つことができたことを放置した
結果にすぎません。弊社のような数人しかいない規模のベンチャー企業で
もそこまで考えて取引を行なうのに、規模・スタッフ的にも充実している
横浜市や東京都が、そうしたリスクを考慮せず、後で、それを取引先に押
しつけようとするというのは、怠慢としかいいようがありません。
□ 買い叩き、トラブル処理ではなくリスクマネジメントがプロの仕事
今回の騒動の背景には、買い手側の各事業主体に、BtoB取引、調達・購買
の仕事に対する甘い見方があったのではと感じられます。
BtoB取引では、BtoCと異なり、目の前にあるものを単純に安く買えばよい、
取引先を買い叩けばよい、トラブルが起きれば、後で取引先に文句をつけ
ればよいというものではありません。
その時に必要とされているモノ・サービス・役務などを取得すると共に、
そこで生じるリスクを想定し、予め手を打っておくリスクマネジメントが
求められます。
消費者保護法や下請法に象徴されるように、BtoBの取引は、下請法を除け
ば、当事者同士で解決すべき、また、それだけの能力を事業主体は持つと
みなされています。確かに、法律で規制するよりも、当事者間で解決した
方が効率的です。
石原都知事は、電通への映像を制作費の値下げに際し、「都民も私も納得
できない」と発言し、都民を味方につけようとしたようです。これは、電
通との契約前の議会なりでの発言ならば理解できますが、契約後では、
「私は、頂いた税金をまともに使う能力がありません。」と述べており、
事業体としての責任を放棄しているのと同じです。事業体としての調達・
購買を、個人の買い物感覚で考えるのは誤りです。
「電通との契約は担当者に任せていた。」と反論されるかもしれませんが、
それは、反面、不適正な税金の使途をチェックする仕組みが無いことの証
明になりますので、結局は、行政の長たる知事の責任となります。
企業、行政を問わず、これらのケースを他山の石として、不当な減額請求
を「なるほど、こうした強いリーダーシップを示すことが必要か!」と誤っ
た解釈をするのではなく、恥ずべきケースとして、自身の支出管理、調達・
購買機能のマネジメントに活用して頂ければと存じます。
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【東京工業大学大学院 キャリアアップMOT ストラテジックSCMコースの
ご案内】
東京工業大学大学院 キャリアアップMOT(CUMOT)サプライチェーン戦略
スクール ストラテジックSCMコースにて、弊社代表の中ノ森が講師を務め
ます。
CUMOTのプログラムは、東京工業大学大学院イノベーションマネジメント
研究科が主体となり連営する、企業の次世代を担う中核人材のキャリアアッ
プを支援する技術経営(MOT)教育プログラムです。
グローバル化する世界のニーズに応えて、新たなパラダイムに対応する新
しいサプライチェーンの創造が企業にとって大きな課題となっています。
サプライチェーン戦略スクールは、日本は個々の現場力、製品やサービス
の品質では海外に比べて勝っているのに、ビジネストータルとしてのサプ
ライチェーンマネジメント(SCM)やその成果としての収益力では遅れをとっ
ているという問題意識について、東京工業大学と産業界のメンバーが議論
を重ね、この現状を打ち破る解として、企画されたものです。
サプライチェーン戦略スクールの第一弾として、ストラテジックSCMコース
(春期)が、5月から8月にかけて開催されます。弊社代表の中ノ森は、こ
のストラテジックSCMコースでは、SCMにおける調達・購買機能のマネジメ
ントのあり方についての講義を担当します。当講義では、SCMにおける調
達・購買機能のマネジメントとはどうあるべきか、また、グローバル市場
におけるその先進事例について講義する予定です。
このコースでは、他にSCMの実務の一線で活躍しながら先端的な研究を怠
らない優れた方々を講師陣に迎え、企業の方々が、グローバル化の時代に
ふさわしい新しい構想に基づいて、幅広い経営的な視点と経営科学的なア
プローチで、それぞれの企業の戦略に即したサプライチェーン・マネジメ
ントを学び、それぞれの企業でのSCMの実現への道筋を見つけ出す力をつ
けて頂く事を目指しています。
これからのグローバル競争の軸となるSCMの根幹を理解した経営者として、
あるいはSCMのプロフェッショナルとして、日本の強み、文化を活かし、
グローバル競争に打ち勝つ、新しいSCMの形を一緒につくって行きたいと
いう経営者、経営幹部、経営企画、情報システム企画、調達・購買、生産
管理、物流部門の方々に、是非ご参加頂ければと存じます。
願書受付は3/1(月)~ 4/16(金)、締切日必着となります。志望理由な
ど、少し時間が必要と思われますので、お早めに準備頂く事をお勧めしま
す。カリキュラム概要、募集要綱などにつきましては、
東京工業大学大学院 キャリアアップMOTのウェブサイト
http://www.mot.titech.ac.jp/cumot/sss/scm/
をご覧下さい。
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らこっそり教えて頂いた、穫れたてのお得情報をご紹介する「穫れたて調
達情報」コーナーを、弊社サイト内に設けました。
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ル/メディカルマスク」と、花粉症対策や食品加工等の衛生作業向けの
「フェイスマスク」です。今回のお得な点は、中国工場からの直接調達に
よる価格優位性です。
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1カートン=5,510円(50枚/1ケース×40ケース=2,000枚、1枚=2.76円)
で販売します。限定100カートンの特価販売です(関東地域以外の方は別
途ご相談させて頂きます。お気軽にお問合わせ下さい。)
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【編集後記】
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
「恥の上塗り」
恥をかいたうえに、また恥をかくことを戒める言葉です。今回のケースは、
正にこの典型例ではないでしょうか?
個人的には、失敗を素直に認め、真摯にその失敗を次の機会に生かし、そ
こで挽回することの方が、長い目で成功することを、今回のケースからは
学んだ気がします。(山本)
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【週刊 戦略調達】
■発行者 株式会社 戦略調達 中ノ森 清訓
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■発行日 毎週火曜日
■創刊 2009/4/16
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