【週刊 戦略調達 vol.45 2010.2.16】リスクを取らない商売に繁栄なし - 小学館や角川書店など出版大手が売り切り商法導入
【今週のトピックス】小学館や角川書店などの出版大手が、これまでの慣行であった書店で売れ
残った本の返品を受け付けない代わりに、書店の利幅を増やす書店への売
り切りでの取引形態を導入するとの事です。
(出所:日本経済新聞 2009年2月13日 13面)
現在の書籍流通では、返品自由な取引が主流のため、書店は実際に売れる
量より多めに発注しがちで、業界全体で返品率が40%強にまで達していま
す。
市場で流通している40%の書籍が、ムダに作られ、ムダに書店に届けられ、
ムダに書店から取次、出版社へ戻され、断裁される。なんとムダに資源、
エネルギーが使われている事か。
返品自由な取引は、地球環境だけでなく、売り手であるサプライヤの経営
を確実に圧迫します。当然サプライヤは、これらの返品本の製造、物流、
回収、断裁コストを負わなければなりません。
実は、書籍流通のように明確になっている訳ではありませんが、日本では、
様々な分野で過当競争でサプライヤの立場が弱すぎる事から、小売からの
返品が自由な分野が少なくありません。書籍以外のお客様からも、小売か
らの返品が自由のため、在庫管理の精度が上がらず困っているとの相談を
受けた事があります。この時には、お客様は、競合が片手の範囲に収まる
数しかなかったため、メーカの寡占にある業界と思っていたので、非常に
衝撃を受けました。
返品が自由だと実売データを把握するのが遅れるため、正確な販売・製造・
在庫計画を立てる事ができません。これらの計画の精度が低いと在庫を多
めに持たざるを得ません。一方で、計画が信頼できない、売れ筋に対して
大胆に在庫を持つ事もできず、売れ筋での品切れが多くなってしまうとい
う問題も、返品自由の業界に属するサプライヤは抱えています。
返品自由は、買い手企業にとってメリットのようですが、必ずしもそうと
は言えません。
返品自由から生じるサプライヤのコスト負担は、当然、価格に転嫁されま
す。今回の小学館のケースでは、書店の仕入値を、返品自由の場合の定価
の78%から、売り切りの時には65%と大きく引き下げています。角川グルー
プパブリッシングが導入したある書籍では、販売後に1冊50円の協力金を
受け取れます。これらの原資には、売り切りの取引による流通コストの低
減が充てられます。
最近隆盛の小売のPB(プライベートブランド)が、良質なものをより低価
格で提供できる理由の一つにも、この在庫リスク、販売数量下振れリスク
がメーカ側ではなく、小売側にある事があります。
買い手側が返品自由を止め、買取に移行する最大のメリットは、品揃えの
改善にあります。返品自由となると、とにかく商品を抱えておけば良いの
で、売れ筋の見極めや品揃えのあり方の学習に真剣になる事ができません。
書籍流通では、放っておけば、著名作家などヒットしそうな書籍では、各
書店が過大に仕入れ、結果として返品の山となる事を防ぐため、どの書店
にどれだけ供給するかは、書店のこれまでの販売実績に基づき、取次店が
決めています。売れそうだと思っても、これまでの実績がない書店では、
希望通りの部数を仕入れられないのです。書店では、小売の基本である店
頭の品揃えを、店側でコントロールできないのです。今回の買取制では、
こうした状況が改善され、書店側で希望の数だけ仕入れることができるよ
うになります、
なんだかんだ言って、何れの商品でも、実際に店頭に並べてみるまで、何
がどれだけ売れるか分からないものです。また、売れ筋には地域差があり
ます。何がどうして売れているのか。現在の売れ行きが地元のイベントな
どによる一過性のものなのか、継続的に続くものなのか。そうした商品の
売れ行きの裏にあるものを把握しているのは店頭であり、書籍のような非
定番品について、一番正確な販売予測を立てられるのは、日々お客様と接
している店舗です。
これまでリスクを取って仕入れを行ってきたことのない書店では、買取制
に移行していく段階で、当然、多く仕入すぎてしまったり、売れ筋を見逃
してしまう事もあるでしょう。そうした痛みがあるからこそ、そうした失
敗を避けようと人は努力し、学習します。
店舗が買取制のリスクを負う上でもう一つ考えなければならないのが、価
格決定権です。出版物の場合、店頭でも出版社が決めた小売価格での販売
される再販制度となっています。買取制では、どうしても過剰仕入となる
ケースが出てきてしまいます。買取制で過剰在庫の処分に有効な手段の一
つは値引き販売ですが、書籍流通ではこれが認められていません。小学館
は、今回の買取制度で返品は受け付けませんが、書店の要請に応じて、定
価の30%で買取に応じます。再販制度の見直しには時間が掛かるでしょう
から、買取制を普及させる過渡的な措置として、導入する出版社のこうし
た対応は不可欠でしょう。仕入れリスクと店舗の価格決定権の関係は、コ
ンビニエンスストア業界も、考えていかなければならない問題です。
品揃えという観点からは、書籍では、在庫を効率的に持てるAmazonなどの
オンラインショップの方が優位にあります。また、電子書籍が普及してく
ると、書店の競争環境はますます厳しくなります。在庫数に制約のあるリ
アルの、特に中小の店舗では、品揃えではまったく敵わなくなっています。
こうした業界での店舗の唯一の生き残り手段は、店のお客様に合わせてメ
リハリをつけた個性的な店作りです。長年続いた業界慣行を変えるのは簡
単ではありませんが、市場全体が縮小する中では、各店が挑戦できる機会
を提供する今回のような取組みを、業界全体として推し進める必要があり
ます。リスクを取らない商売に学習なく、学習のない商売に繁栄はありま
せん。
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【編集後記】
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
今回は、買い手企業はもっとリスクを取るべきと書いていますが、売り手
企業を擁護している訳ではありません。日本でサプライヤの立場が弱すぎ
るのは、あくまでもサプライヤの責任と考えています。
日本では、売り手企業もリスクを嫌い、多くの新商品開発において、「明
日売れるもの」ではなく、「今売れているもの」を作り、すぐに同質競争に
陥ってしまいます。
銀行やベンチャーキャピタルなど資金の出し手が、「今売れているもの」に
しか資金を提供しないという構造的問題もありますが、「自社にだけしか取
れないポジショニングを取る」「お客様に正当な対価を頂ける商売をする」と
いうサプライヤとしての矜持が売り手企業に不足しています。
値下げをして売る事は誰にでもできますが、それでは、先がありません。
先がない仕事では、それに携わる誰もが夢を持てず、そこから抜け出すこ
とはままなりません。
売り手企業は、値下げを検討している暇があったら、苦しくても価格を下
げずに売る努力、コストを下げて低価格でも収益を上げる努力、他社が真
似できない商品・サービスの提供の何れかに、時間とコストを掛けるべき
です。
売り手企業が強い方が、我われ買い手側も腕を磨く事ができます。お互い
に切磋琢磨して、より良いモノを世に出していきましょう!(山本)
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【週刊 戦略調達】
■発行者 株式会社 戦略調達 中ノ森 清訓
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■発行日 毎週火曜日
■創刊 2009/4/16
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