【週刊 戦略調達 vol.34 2009.12.1】
値決めは交渉それとも市場連動方式のいずれですべき?

【今週のトピックス】

資源大手のBHPビリトンが、8月の鉄鉱石に続き、原料用石炭(原料炭)の
値決めを市場連動方式に切り替えるよう、日本の鉄鋼大手に対し、要請し
ました。(出所:2009年11月27日 日本経済新聞 11面)

市場連動方式は、取引価格の決定に、スポットなどの市場価格を基にした
算式(フォーミュラ)に、期間契約の価格を自動的に連動させる方式で、
フォーミュラ方式とも呼ばれます。

■ 市場連動方式のメリット 

市場連動方式のメリットは、

1.都度交渉に比べ、売り手と買い手の間でお互いに合意されたフォーミュ
  ラで価格が自動決定されるという意味においては公正である

2.価格決定に交渉が不要のため、週、月、四半期毎など頻繁に価格の見
   直しを行う必要のある取引においては、これまで交渉のために費やし
   ていたお互いの時間の浪費をなくせる

3.資源価格が取引価格に反映されるため、モノの価値が価格に反映しや
   すくなり、有限な資源の価値を価格の中に含める事ができるようにな
   る。今後、様々な資源の枯渇が懸念される中で、資源の有効活用、環
   境負荷の低減につながる

といったものがあります。

■ 限定的な利用に留まる市場連動方式と交渉に対する誤った思い込み 

売り手、買い手にとってもメリットの大きい市場連動方式ですが、資源・
原材料取引でも、まだまだ限定的にしか使われていないという感があり
ます。これは、買い手企業が、価格は交渉で決めた方が自分達に分があ
ると考えている事が大きいと思われます。

背景の一つには、市場連動方式では競争が働かなくなると買い手企業が
考えている事がありますが、これは誤解です。市場連動方式でも、フォー
ミュラの決定は交渉で決まります。ですので、フォーミュラの決定時に
競争原理を働かせる事によって、市場価格とのスプレッドやフォーミュ
ラなどでより自社に有利な取引条件を引き出せます。

もう一つには、買い手企業が、交渉でより有利な条件を引き出せると考
えている事にあります。しかし、これは根拠がありません。交渉スキル
は、広く普及しており、当然、売り手企業の交渉担当者のスキルも自社
と同等と考えるのが妥当です。また、交渉力があるのであれば、市場連
動方式でも、フォーミュラ決定交渉で有利な条件を引き出せますので、
市場連動方式を恐れる事なく採用し、その後の定期的な値決め交渉の無
駄な作業をなくしてしまった方が、買い手企業にとっても効果的です。

■ 交渉の結果に論理的妥当性は存在しない

交渉による価格決定は他にも問題があり、交渉によって決まった価格の
妥当性が全くない事もその一つです。そのため、交渉で合意に至っても、
お互いに「本当にこの価格で良かったのだろうか。もっと安く買えたの
ではないか/高く売れたのではないか」という疑念が、売り手、買い手
双方の交渉担当者、管理者の間にいつまでも残ってしまいます。

交渉が論理的でない事は、自動車用鋼材の価格決定が、大手鉄鋼、自動
車メーカのトップ同士で行われている事に良く表れています。通常の取
引の価格交渉は、売り手企業の営業担当者と買い手企業の調達・購買担
当者の間で行われます。これは、鉄鋼、自動車メーカの他の取引にも言
えます。

通常の取引と自動車用鋼材取引の違いは、ここで決まった価格のインパ
クトがお互いの会社に与える影響があまりにも大きいという事に尽きま
す。

自動車用鋼材取引でトップが交渉にあたるのは、交渉に長けているといっ
た理由ではありません。企業トップに交渉スキルは不可欠かもしれませ
んが、通常は企業トップがその地位に付いている理由は、交渉スキルで
はなく、もっと他の能力や要素によります。

トップが交渉にあたるのは、もっと単純な理由で、インパクトが大きす
ぎるが故に、お互いにトップが出てこないと、いつまで経っても話がま
とまらないからです。

売り手企業、買い手企業の役員も含めた担当者が交渉に臨んだ結果、不
利な条件であれば、当然、上位者や社内から「そんな条件は飲めない。
もう一度行って交渉して来い。」、例え、非常に有利な条件で交渉をま
とめても、「そんなに有利な条件が得られるのであれば、もっと有利な
条件が得られるのでは。もう一度交渉して来い。」となってしまいます。
論理的に妥当な価格がない為、交渉になるのであり、第三者から見れば、
交渉の結果に論理的妥当性はいつまで経っても存在しないのです。

そのため、社内で最高の権限を持つ者同士が交渉の席につき、その場で
決定し、どのような結果であれ、「社長が決めた事であれば仕方がない。」
とお互いの社内をまとめる事で決着をつけるしかないのです。トップ同
士の交渉で得られた結果は、必ずしも「論理的に正しい」のではなく、
「社内の誰もが正しいと納得できる」ものであり、トップ交渉は、交渉
結果に正当性を与えるためのセレモニーに過ぎません。

■ BtoBの取引では、交渉はそもそも価格決定の役に立たない

調達・購買担当者にとって、交渉による価格決定の最大の問題は、BtoBの
取引では、交渉は、そもそも価格決定の役に立ちません。ですので、交
渉を幾ら繰り返しても、調達・購買コストは下がりません。

多くの調達・購買担当者の方は、それを自分の交渉力がないからと考えて
しまい、「必勝」「不敗」「ハーバード流」「外交官が教える」「弁護
士が教える」「相手にYesと言わせる」「ヤクザ流」「相手の心理や嘘を
見破る」といった様々な交渉術の書籍やセミナーに多くのお金を投じて
しまっています。

「本に書いてある事は使えない」と感じながらも、それでもやっぱり
「それは、その本やセミナーが誤りであって、今度こそ本当の交渉術な
のではないか」という悪魔のサイクルを繰り返しています。

確かに、売り手企業のお情けで、交渉を通して価格が下がる事もありま
す。しかし、それはせいぜい数%止まりで、交渉で価格が下がる場合の
大抵は、売り手企業が値下げ余地を予め織り込んでおり、それを除いた
適正な価格を、或いは、その一部のみを用いて、まだ余裕を残しながら
値下げした価格を出してきているに過ぎません。

かように、値決め交渉というのは、お互いの時間の無駄に過ぎない行為
なのです。

■ 市場連動方式も万能ではない

しかし、市場連動方式も万能ではなく、幾つかの留意点があります。一
つには、市場連動方式で用いる指標、フォーミュラなどは、結局、交渉
となり、結果の妥当性や、BtoBの価格決定での交渉術の効き目といった
問題は残ったままです。

また、市場連動方式の公正さは、市場価格の変動リスクを売り手と買い
手で分かり合う事にあり、相場の上げ下げの基調が変わる度にフォーミュ
ラの変更を何れかが求めるようであれば、公正さが失われてしまいます。
少なくとも、一年間など一定期間は合意した方式にコミットする必要が
あります。

そして、最大の懸念は、余剰マネーの増加と、それによる商品市場への
投機マネーの過剰な流入です。投機マネーの流入により、価格の上げ下
げの幅が過度に大きくなったり、市場が需給を反映しなくなっていると
いう問題が起きています。

前者は、過去平均の利用など、ノイズを除去する方法はありますが、こ
の方法では、市場と契約価格のタイミングにずれが生じ、その分、市場
連動方式の採用にリスクが生じてしまいます。

後者は、非常に影響が大きい問題です。市場連動方式は、指標となる市
場価格がある事が大前提です。市場が需給を反映しなくなると、この前
提が大きく揺らいでしまいます。

実際に、保有原油埋蔵量、原油生産量、原油輸出量で世界最大のサウジ
アラビアの国営石油会社サウジアラムコは、実際の需給を反映していな
いという理由で、これまで彼らの市場連動方式で使っていたWTI現物価
格を、来年1月積みからサワー原油指数への変更を10月末に発表しまし
た。

■ まとめ

市場連動方式は、これまでの取引先選定の競争原理を損なう事なく、価
格決定の交渉やそのために費やしていた時間が売り手、買い手企業とも
大幅に減らせるため、適正な指標が得られる限りは、積極的に活用され
るべきものです。

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【編集後記】

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

現在のマネーの動きは異常と言えます。マネーは「経済の潤滑油」とも言
われていますが、今のマネーは「経済の不正軽油」とも呼ぶべきものになっ
ています。

不正軽油は、軽油引取税の脱税を目的に、トラックなどのディーゼルエン
ジンの燃料となる軽油に、より安価なA重油や灯油などを混ぜ、軽油とし
て販売するものです。不正軽油には、摘発を免れるために混ぜ物を入れた
り、ひどいものでは水などが混ぜられ、不完全燃焼でエンジンを壊してし
まいます。

今のマネーの動きは、経済の潤滑油どころか、この不正軽油のように、水
増しされた過剰流動性により、あちこちでバブルを起こし、実態経済を破
壊するケースが増えています。

企業人としては、規制や行政府の力に頼るのは本意ではありませんが、過
剰なマネーの流動を抑制し、実態経済が主、マネー経済が従となる社会を
築くべく、商品市場への投機資金の流入に対するある程度の規制が必要と
考えます。(山本)

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【週刊 戦略調達】
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■創刊 2009/4/16
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