ナレッジ  » 週刊 戦略調達 vol.23 2009.9.15

【週刊 戦略調達 vol.23 2009.9.15】
千葉県の不正取引問題を他山の石に調達・購買業務のマネジメントを考える

【今週のトピックス】

千葉県は、職員らによる不正取引についての調査結果を公表しました。そ
れによると、調査対象の401部署中の96%にあたる383部署において、5年
間で調査対象の消耗品費65億円の46%にあたる約30億円の不正な取引、経
理処理が、組織的に行われていたと確認されました。

これは千葉県だけが例外的に腐敗していたために起きた問題ではなく、自
治体の大規模な不正としては、岐阜県で06年に約17億円の裏金づくり、今
年2月、愛知県で約15億円の不正取引などが明らかになっています。

こうした組織的な不正取引は、効率や利益を追及する企業では起こりにく
いと考えられていますが、実際には、そんな事はありません。不正取引は、
通常の会計監査では見抜けないよう行われますので、掘り下げた調査をし
ないと明らかになりません。企業の場合、私的流用を除けば、不正取引は、
費用のムダ使いや私的流用の温床の放置といったマネジメントの不備の問
題に過ぎなくなってしまいますので、同じ行為であっても税金のムダ使い
として批判に晒される官公庁などの行政機関に比べ、問題として表面化し
ません。不正取引の原因を見ていきますと、それが、営利、非営利を問わ
ずあらゆる組織の問題である事が分かります。

不正取引の原因には、1.プロセスの問題、2.マネジメントの問題、3.
価値観ならびに組織カルチャーの3つがあります。

1.プロセスの問題
不正取引を防ぐためには、少なくとも仕様の決定、取引先選定と取引条件
の決定、検収ないしは支払の調達・購買に関わる三権を分ける必要があり
ます。千葉県の調査報告によると、発注と検品が同一職員であった事によ
取引先との癒着、契約・検収・支払の各事務を同一部門で実施という事が
指摘されています。調達・購買の三権分立の考えは、こうした問題が起こ
らないよう、各権限を分ける事により、お互いの牽制を働かせ、取引先と
の癒着を防ぐとともに、各権限部門の最善のパフォーマンスを引き出す事
を目的としています。

また、二次的な問題ですが、千葉県の調査では、備品購入費が予算化され
にくく、流用・繰越手続きが煩雑という事が原因として挙げられています。
そうした手続きは、元々は統制のためであり、手続きに問題があれば、手
続きそのものを正すべきであり、これを理由に不正取引をするのは言い訳
に過ぎません。しかし、時間が経つにつれ、過去に定めた統制手続きが過
剰や意味をなさなくなっている時もあります。そうした手続きは、千葉県
のケースのように、意味をなさない所か、スタッフに決められた手続き、
ルールを破る事を促すという悪影響があります。プロセスは目的達成のた
めの最低限のものに留め、できるだけシンプルにする必要があります。

2.マネジメントの問題
三権分立したプロセスを設けても、実質的な権限が分けられなければ機能
しません。書類だけ見ていては、業務が定められた通りに行われているか
どうかは分かりません。「預け」「差し替え」「先払い」といった不正取
引の手口は、書類と現品を見ればすぐに分かります。それ故、こうした手
口は、調達・購買の三権を持つものが結託して組織的に行うか、チェック
機能の形骸化していない限り、起こり得ません。

すべての納品をマネジメントレベルでチェックせよとは言いませんが、納
品書のない納品、感覚的に高すぎる予算、調達・購買の三権の権限者が一
致団結して説明するといったケースに遭遇した時には、そんなものかと流
したりせず、プロセス、内部統制が機能していないのではないかと疑問を
持ち、問題がない事を確認する作業が不可欠です。

3.価値観ならびに組織カルチャー
プロセスは、安易に不正を起こすのを妨げるのに有効ですが、意図的に不
正を働く者には効力を持ちません。最近相次いでいる顧客情報の流出の多
くが、外部の者の犯行ではなく、その情報へのアクセスを持つ関係者によ
るものである事がその一例です。

千葉県のケースでは、購入伝票の手間の削減や、予算の計上・執行を単年
で行わなければならない単年度主義の問題を回避するためという事で、そ
れぞれの行動を正当化していった事が、組織的な不正取引につながってい
きました。

これらは、非常に自己中心的な考え方で、そもそもの組織の存在意義や、
何のために働くかという価値観が欠如しています。行政機関の目的は、個
々の市民の幸せの実現であり、そのために徴税権が与えられる一方、その
目的のために税金を最も効果的な方法で使う責任があります。こうした価
値観を、組織として個々の千葉県の職員が持っていれば、伝票作成や予算
化・流用手続きの多少の煩雑さなど厭わないでしょうし、手続きに問題が
あれば、その解決に取り組んでいたでしょう。予算維持のための使い切り
という発想は、住民を無視した組織の維持・拡大のみを目的としたもので
あり、娯楽設備の購入や私的流用は、個人の欲望の追及というまったくも
ってひどい話です。

企業は行政機関ほど単年度主義ではありませんが、部門予算は年度毎に割
り当てられるため、やはり何のために事業を行っているかという価値観を
失ってしまうと、お客様のためではなく、部門予算の維持・拡大を目的と
した予算消化が見られるようになります。企業では、競争入札が義務づけ
られていないので、行政機関よりも取引先との癒着は起こりやすい環境に
あります。

千葉県の調査結果で気になるのは、発生原因としてプロセスの問題を幾つ
か上げていますが、マネジメントの問題は全く上がっておらず、価値観な
らびに組織カルチャーについては、職員のコンプライアンス意識の問題と
いった表面的な部分に止まっています。今回の問題は、コンプライアンス
の問題などという甘いものではなく、誰のために何のために組織はあるの
か、働くのかという根本的な職員の価値観の問題です。そして、その価値
観を示し、職員の中に醸成していくのが、マネジメントです。知事は外か
ら選挙で選ばれて来るので、組織に責任を負うという感覚が持てないかも
しれませんが、歴代の知事がこうした問題を起こすプロセス、価値観、組
織カルチャーを放置してきた責任についても明らかにすべきでしょう。そ
こまで踏み込まなければ、どんな改善策も組織に根付かず、形骸化し、不
正取引は必ず再発します。

企業であっても、組織が大きくなると、価値観、マネジメントに問題が生
じやすくなります。オーナー企業と異なり、サラリーマン経営者では、な
かなか事業に思い入れを持てず、スタッフ一人ひとりを共感させるような
魅力的で強い価値観を提示できません。組織が大きくなる程、スタッフ一
人ひとりの事業への貢献度は小さくなりますから、それぞれの事業に対す
る思い入れ、責任感は小さくなりがちです。中小企業では、現場の問題も
自ずと経営者の目や耳に入りますが、大企業ではそうはいきません。とも
すると、現場の問題が経営者に伝わらないように隠されてしまいます。複
数事業を運営していたり、持ち株会社では尚更です。

こうした組織では、社長・役員クラスであっても、調達・購買権限を持つ
者が「自分はこんなに頑張っているからこれ位は良いだろう」と取引先か
らの接待を当たり前の事として受け癒着するようになったり、取引先に自
分が懇意にしている者を押し込んだり、取引を利用して私的便宜を図るよ
うになります。

それでは、不正取引を防ぐには、どうすれば良いのでしょう。

まず、プロセス・制度・組織設計においては、人は間違いを犯す、大義で
はなく自己の利益のために悪意を持って組織を利用しようとする輩もいる
という前提で行う必要があります。社員を信頼していないという事ではな
く、あくまでも、そういう前提で設計に取り組むべきという話です。構成
員が安易に過ちを犯すのを防ぐというマネジメントの責任という観点から
も、プロセス・制度・組織設計において、性悪説からの視点も必ず取り入
れる必要があります。

次いで、マネジメントから一人ひとりのスタッフまで、誰のために、何の
ためにその事業を行っているのか、組織はあるのかという価値観を共有す
る必要があります。

そして、その価値観から見て、「あれ、おかしいな」と感じた時に、それ
をなおざりにするのではなく、「これっておかしくないか」と確認し、問
題があれば是正する組織、カルチャーづくりが必要です。

これらの取り組みは、簡単ではありませんが、単なる不正の防止だけでは
なく、本当に適正な取引先の選定、取引につながり、飛躍的な調達・購買
コストの削減につながりますので、営利、非営利に関わらず、どの組織に
も取り組んで頂きたいと思います。

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【編集後記】

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

今回は、調達・購買業務のマネジメントの本質、弊社の調達・購買業務に
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以下に不正取引の温床となりそうな兆候をご紹介しますので、貴社の調達・
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□ある品目の取引先がずっと固定している
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□開発・設計担当者、要求部門がサプライヤを指定している
□社長、役員など影響力のある人間が知り合いの会社を取引先に指定する

これらの兆候に対してどのように手を打つべきか、或いはこれらの兆候が
なぜ問題なのかといったご質問があれば、お気軽にご連絡下さい(山本)

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【週刊 戦略調達】
■発行者 株式会社 戦略調達 中ノ森 清訓
 www.samuraisourcing.com
■発行日 毎週火曜日
■創刊 2009/4/16
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